1990年代前半の翻訳業界 ~文字数(単語数)カウントの必要性とDTPの出現~

1990年代に入った当初は翻訳業界の仕事の内容はあまり変化しませんでした。
ただし、以下二つの点で新しい仕事が加わりました。


文字数(単語数)カウントの必要性

1980年代は翻訳した仕上がり枚数で料金を決定していましたが、1990年前半、一部のクライアントから「翻訳枚数ではなく、翻訳後の正確な文字数で請求してほしい」との要望が出始めました。
パソコンで簡単に文字数(単語数)カウントができるようになるのは1990年代後半のWindows95の出現以降ですから、多くの翻訳会社が困ってしまいました。


一部の翻訳会社は窮余の策としてバードウォッチング用の手動カウンターを導入し、翻訳文書の文字数(単語数)カウントを始めました。会社内に専任のカウント人員を雇用し、会社内でカチカチとカウントするのです。
翻訳会社としては余分のコストがかかるので不服なのですが、顧客の要望なので仕方ありません。


私は「大学で英語を専攻して翻訳会社に就職したけれど、来る日も来る日も文字カウントばかりやらされたので嫌になって会社をやめました」という話を複数の人から聞いたことがあります。


実はこの頃のクライアント向け翻訳料金(相場)は現在(2021年)より高いくらいでしたが、このように無駄な作業をやっていたのですからコストが高くなっても不思議ではありません。


DTPの出現

翻訳文は多くの場合、印刷会社で印刷されます。印刷機で印刷するにはインクをのせて紙に印刷するための版(はん)が必要です。この版を作るための元の紙の印刷物を版下(はんした)といいます。
版下はそれまで「電算写植機」という高価な専門の機械でしか作成できず、印刷会社の仕事でした。


しかし1990年代前半にMACパソコン向けに、印刷前の文字やイラストなどを編集(レイアウト)できるソフト(PageMakerなど)が出現し、版下作成作業がパソコンでできるようになりました。


このパソコンを使った版下作成作業はDesk Top Publishing (DTP)と呼ばれ、瞬く間に世の中に浸透しました。最初はMacintoshのパソコン向けのみでしたが、そのうちWindows向けのソフトもでき、現在に至っています。


DTPが世の中に出現した当時、これによるDTP(レイアウト、または編集)作業は翻訳作業以上に高く売れる商品だったので多くの翻訳会社・マニュアル作成会社が導入し、ビジネスの幅を広げました。


このようにDTPは当時の翻訳会社の守備範囲を広げるありがたい存在でしたが、あまりにも広く世の中に浸透したため、今では「翻訳した後のおまけのサービス」的な存在になっています。


翻訳会社トランスワード 社長のブログ

当社は広島を拠点にする、自動車を含む工業技術分野を得意にする翻訳会社です。 このブログでは1997年の創業から現在に至るまで、翻訳会社として良いサービス提供のために考えてきたこと、実行してきたことをまとめます。 また、海外出張などで経験し、興味深いと感じたことなどを随時お届けします。 株式会社トランスワード:https://www.transwd.com/

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