先日、テレビのBSチャンネルの一つである「放送大学」のスペシャル講座を見ていたら「機械は考えることができるか」という内容の興味深い話がありました。
講師は愛媛学習センター所長(2018年当時)であり、知識工学を専門とする村上研二氏でした。
村上先生の話はコンピュータ出現から現在までのAI研究の歴史と現状、そして今後の見通しを含む、興味深い内容であり、翻訳を仕事にしている我々にも大きな影響を与えそうな話も出てきたので、以下に私のコメントも加え、紹介します。
戦争で使う大砲の弾道計算を目的として作られた世界最初のコンピュータは1946年に登場しました。しかしこの頃は世界大戦も終わり、戦争より将来の平和利用に活用すべきという風潮が強まりつつありました。
この流れで1950年代から60年代前半まで、このコンピュータを人間社会のさまざまな問題を解決する「一般問題解決機」として使えないだろうかという、いわゆる第一次AI研究ブームが起こりました。
この研究の結果、ゲームや定理証明などでは一定の成果が得られましたが、実現が簡単と思われていた人間が簡単に行っている(ように見える)文字認識、画像処理・理解、自然言語処理・理解、音声認識、翻訳、意思決定などの実現は難しいことが判明しました。この原因は人間が自然に身につけている「幅広い一般知識」をコンピュータに与えることが困難であったためです。
例えば次の二つの文章を考えてみましょう。
1. 双眼鏡でうどんを食べている太郎を見た。
2. スプーンでうどんを食べている太郎を見た。
この例の場合、双眼鏡とスプーンは「うどんを食べる道具なのか」または「見るための道具なのか」という、人間なら子供でも知っている情報を当時のコンピュータは持っていないので、正しい言語処理ならびに翻訳ができなかったのです。
この結果を踏まえ、1960年代後半から80年代にかけて盛り上がった第二次AI研究ブームでは必要な知識をある程度限定した、いわゆるエキスパートシステムの研究に力を入れるようになりました。
難病の診断システム、将棋や囲碁の対戦システム、東京大学に合格できる頭脳をもつ「東ロボ君」の開発などです。
この研究の結果、1997年にはIBMのコンピュータがチェスの世界王者を破る、2013年には将棋のプロにコンピュータシステムが勝利する、などの成果も出ています。
続く2000年代から現在までを第三次AI研究ブームと呼ぶことができると思います。
現在行われている研究の特徴は、人間の脳内の神経細胞(ニューロン)の構造を真似たシステムをコンピュータ内に構築し、人間が知識を吸収し判断するシステムを再現することによって第一次AI研究ブーム時にあきらめた「人間が普通に持っている知識や判断能力を構築する」ことを行っています。
人間のニューロンの構造は非常に複雑で、何層にも重なり、互いに影響しあっていることから、この構造を「深層構造」と呼びます。この構造をまねたコンピュータ内のシステムで多くの情報の取り込みをしていることから、これをコンピュータによる「深層学習(ディープラーニング)」と呼びます。
この深層学習のささやかな成果として2012年にGoogleが猫の写真を見て「これは猫だ」と判断できるシステムの開発に成功しました。当時のコンピュータが動物の写真を見て「これは猫だ」と判断するためには約1000万枚の猫の写真を見て学習する必要があったそうです。人間から見ると「なんと効率の悪い学習なんだ」と思ってしまうのですが、これが当時の現状だったようです。
次回Part 2につづく
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