Eメールは便利だが、使い方に一工夫が必要
1.一昔前のビジネスレターの功罪
2000年頃から普及したインターネットとEメールのおかげで事務職の仕事は随分と楽になり、ビジネスのスピードがアップしました。Eメール普及の前、会社対会社のやり取りは電話以外では、手紙(ビジネスレター)または手紙の電子版であるFAXでした。
ビジネスレターの時代、取引先企業に何らかの連絡をするには丁寧なレターを書くのが基本でした。自分が担当者なら自分でレターを書き、それを上司にチェック・添削してもらい、封書またはFAXで送っていたものです。この時、レターの差出人は自分ではなく、役職者である上司の名前にするのが一般的な会社の常識でした。
今の若い人にこの話をすると「のんびりしているな」、「時間がいくらあっても仕事が進まないよ」、「自分で書いたのになぜ自分の名前で出しちゃだめなの?」といった反応が返ってきそうです。
確かに今の感覚で考えると非効率的で、担当者としてはやる気の出ない方法だったかもしれません。しかし、昔の会社員はこの方法で正しく、効果的なレターの書き方を練習・習得していたのです。
一般的に、正式なビジネスレターには以下のような目的があります。
(1)自分(自社)が相手(取引先顧客など)に伝えたいことを適切・明確に、かつ相手が感心するほどの格調高い文面で伝える。
(2)この時相手が自分の状況と要望を好意的に理解し、自分の要望を承認せざるを得ないほどの説得力と真心を伝える。
(3)当レターがもし、自社の非を詫びて相手の許しを請う内容であれば、その目的を達するレベルの内容(お詫びの気持ち、今後の対策、お客様の気が和らぎ、許す気持ちになる雰囲気などを引き出す表現など)でなくてはならない。
あなたはこのようなビジネスレターを自分一人で書くことができる自信はありますか?
昔の会社員は上司の指導を受けながら、このようなレターの書き方を練習し、ビジネスの基本を教育してもらっていたのです。
2.Eメール時代のビジネス
内容の濃い、まとまったメッセージが詰まった手紙など書いたことのない今どきの若者が企業に就職して事務の仕事を始めるとき、間違いなく最初にぶつかるのがEメールの壁です。
先に述べたようなややこしいビジネスレターではなく、客先との簡単な連絡事項のやり取りでさえ、どのように何を書いていいのかわからない、というのが一般的な新入社員の現状でしょう。
仕方がないので、「Eメールの書き方」などのハウツー本を買ってきて、例文を参考にして苦労しながら一通のEメール書くことからスタートする。かつては、先輩のメールを見せてもらい、物まねしながら時間をかけて先輩並みのメールが書けるようになる人もいました。今はそれも少数派で、インターネットで検索して探し当てた文例をコピー&ペーストして流用する人も多いのではないでしょうか。
いずれにせよ、相手先との関係が順調であれば、その延長線で味気ない実務上のやり取りも難なくできることでしょう。
しかし、相手企業との関係がまずくなり、それを解決するためのお詫びや、誤解の解消を実現するメールはどうでしょうか? 自社の業績を一気に大幅に向上させるための、相手への新規提案や、同意を求める説得力あるメールを書ける人は、果たしてどのくらいいるでしょう?
Eメールを使って相手と頻繁にやり取りし、忙しく仕事をしている気になっていても、自社の業績の向上にはあまり貢献していない人が多いです。
3.Eメール時代の問題点
現代の多くの会社では、社員は一人一人にメールアドレスを与えられ、新人でもベテランでも個人ベースで社外とやり取りをしているのが一般的です。気が利いた会社なら、個人が出すメールは必ず直属の上司にCCを送り、不適切な表現や社内の機密情報が社外に出ないようにチェックする体制ができています。
しかし、上司には毎日大量のCCメールが送られてくるので、その都度、中身を慎重に吟味し、不適切なメールが自社から発信されていたら、そのすべてをチェックし、適切な指導やフォローができるとは限りません。
まじめな人でもサーッと目を通し、よほどの問題がなければそのまま放っておく。表現が少し不適切なメールを見つけても、一つ一つ個人的に指導する余裕はないでしょう。もれなく対応していたら上司は働きすぎになり、ノイローゼやうつ病になってしまうかもしれません。
個人ベースでメールの受発信をしていると、次に問題になるのが「情報共有の不徹底」です。
担当者が会社を不在にしている場合、メールの受信を確認できず、返信が遅れ、ビジネスに支障をきたす恐れがあります。発信時にCCを送っていた上司にうまくCC返信が来たとしても、忙しい上司が対応できるとは限りません。
まじめな担当者なら、自分が留守中に大切なメールが来たときのために、自宅のパソコンやスマホなどでメールをチェックできるようにしているかもしれません。
しかし、これは会社の機密情報の流出につながりかねないので、禁止されるべきです。加えて、会社を不在にしている時でも常時メールのチェックや返信をしていたのでは自分のプライベートの時間が侵され、メールの奴隷になっているようなものです。精神的にも健康のためにもメールの奴隷になるべきではありません。
4.会社でのEメールの上手な使い方(提案)
我社では上記の問題点を解決し、Eメールを使った効果的な仕事の進め方を考え、実践してきました。これは一つの例ですが、参考のために紹介します。
① 代表メールを一つ決める
このメールアドレスは会社のホームページや社員の名刺に記載し、初めて当社にメールでコンタクトしてもらうときに使用します。一回だけの外部との交信、および当社業務に直接関連しない案件は、社内の誰かががこのアドレスから対応する。(全員のパソコンにこのアドレスが入っています)。
② 仕事のチームメールを準備する
自社業務に直接かかわり、継続的に客先と交信する「仕事のチームメール」を必要に応じて準備する。
我社の場合、翻訳業務用のチームメールアドレス(翻訳チーム全員がPC内に設定)、翻訳教育ビジネス用チームメールアドレス(教育チーム全員がPC内に設定)などです。
翻訳業務のチームメンバーは、全員が原則として翻訳業務チームメールアドレスを使って顧客との交信をします。
こうすると自分が直接担当している案件でなくても、自社と顧客とのやり取りが把握できます。自分が新人であれば、先輩のメールを読んで勉強できます。
もし、直接の担当者が会社を不在にしている時に顧客から急を要するメールが来た場合、一緒に働いている仲間のだれかが対応し、迅速な返信が可能です。
③ 各人が個人メールアドレスを持つ
チームが共用アドレスを使うと、時々、不都合な場合もあります。
例えば、顧客から大量のデータファイルが添付されてくるとき、チーム全員がダウンロードすると時間的・PCの容量的な負担が大きくなり、仕事の障害になることが考えられます。このような時、顧客と調整し、自分の個人メールアドレスだけに直接送信してもらうと便利です。
また、チーム全員に情報共有したくない内容のメールを書きたい場合も個人メールアドレスを使えばよいでしょう。
このようにメールアドレスの設定と運用方法を少し工夫すると、顧客との迅速で適切な対応、社内の情報共有、新人の教育などに効果があるのではないでしょうか。
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